アカデミー賞狙いの空気がムンムン!
アメリカ下流社会の病根をえぐり
男社会にパンチ的衝撃を与える作品
※レビュー (鑑賞:完成披露@銀座)
舞台:アメリカ合衆国>ミネソタ州北部
原題:North Country


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オスカーの足音も近づいてきた今日この頃。アカデミー賞前哨戦は既にはじまっているが、いち早くスピルバーグ監督の最新作『ミュンヘン』が、確実との評価を受けたようである。日本では「アカデミー賞ノミネート最有力作品」群の公開が、06年1月に予定されている。実際はこれがアカデミー賞ノミネート?と疑問符な作品もノミネート発表前なら許される。
さて、『クジラの島の少女』のアカデミー賞外国語映画賞ノミネートで実力を示したニキ・カーロが、アメリカの寂れた鉱山の町を舞台にして、一人の女が差別と戦い、抑圧からの解放を手にする社会派ドラマを引っさげて登場。
彼女(ニキ・カーロ)お得意の、辺境の地の慣習・体制が抱える問題点、視野狭窄となっていく村社会的コミュニティ、マイノリティ(この作品では女性)の精神構造をうまく捉え、希望の芽を育てても、その傍から摘まれていく、非情な社会の現実をまざまざと描き出す。
物語はこうだ。クリスマスイブの夜、酒に酔った夫から顔に青あざがつくほどの暴力を振るわれたジョージー・エイムズ(シャーリーズ・セロン)は、既に我慢の限界に達していた。子供を連れて家を出る。
実家に戻った彼女だったが、父親は、娘の帰宅にも「おまえが悪いのだ」と言う。その原因は、彼女の過去にあった。若くしてシングルマザーとなり、転落人生を歩んだ娘のことを、父親は既に見捨てていたのだ。ジョージーはセクシーな身なりが原因で、男たちから町のアイドルのように扱われ、痴話トラブルの種となる存在でもあった。
居候の身で、長男と長女の2人の子供を抱え、職を探すジョージー。旧友のグローリー(フランシス・マクドーマンド)の勧めによって、彼女が選んだのは鉱山での力仕事。父親も働く職場である。
泥と誇りにまみれる仕事ながらも彼女は、初めて仕事らしい仕事をし、家庭を支えられるだけの給料を手にして、目標を持って再び人生を歩もうとしていた。
しかし、職場は男社会。男から仕事を奪うな!と罵られ、差別用語が投げかけられ、過去に関係を持った男がセックスを強要し、慢性的ないじめや嫌がらせが彼女を苦しめていた。息子にも影響は広がり、いじめの対象となっていた。この状況を改善しようと会社社長や周囲の女同僚に訴えかけても、拒絶される。同僚の女たちですら、「反抗」によって居場所を失うのを恐れていたのだった。
…遂に彼女は、元弁護士だった男に頼み、訴訟を起こす。が、法廷でも、レッテルの貼られてしまった彼女は罪人のようだった。
しだいに明らかにされていくのは、彼女を苦しめてきた「村社会」の事なかれ主義と、「男中心」の考え方がいかに彼女を追い詰めてきたのかという、アメリカ社会の抱える病根…。物語の結末は、心にパンチを食らわせるほどの衝撃の真実が明かされ、悲しみの渦で我々を打ちのめすことだろう。
テーマは地味だが、力作である。『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』が過去に入賞しているのなら、本作がアカデミー賞にノミネートされてもおかしくはない。テーマからして無視はできないはずだ。
この作品では、監督のニキ・カーロがアップスケールな視野を持っていることが改めて証明されている。
寒々とした面白味のない風景、広大な鉱山に建つ煙をもくもくと立てる工場、採掘現場での労働者の群集、なじみの集うパブ、お金があれば入れるちょっと高級なレストランなど、舞台となる土地こそが、この事実に基づくストーリーを生んだということを説得させていく。地方の町が漂わせる排他的な雰囲気がスクリーンを支配し、物語を裏付けているのだ。
そこに、『モンスター』での怪演が記憶に新しい、主演のシャーリーズ・セロン。比較するに忍びないが、『イン・ハー・シューズ』のキャメロン・ディアスがおままごとに見えるほど、痛々しく悲しく、切実感に満ちている。虐げられながらも働き続ける女性、そして母親を品位を失うことなく演じきっている。脇を支える全ての役者が緩むことなく、重厚でリアル。終盤近く、グローリーの夫カイル役のシーン・ビーンによる、母を避けるジョージーの息子サミーへの語りシーンでは、慈愛深いメッセージがジーンと胸に響いてくる。
「下流社会」の言葉が暴走している昨今だが、そうした社会性を宣伝プロモーションに加味しながら、「差別」という根本的な問題を投げかける「話題作」になることだろう。
派手さや新しさはないが、記憶に鮮明に残る作品。差別を感じている女性なら、勇気が与えられる。どんなに傷つけられても、自分のために、愛する者のために立ち上がるべき時がある…スタンドアップ。
久しぶりに優れた邦題だ。(←安直とも)
これはオススメである。
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監督:ニキ・カーロ
出演:シャーリーズ・セロン、フランシス・マクドーマンドほか
配給:ワーナー・ブラザース
06年1月、丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にてロードショー
■公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/standup/
(C) 2005 Warner Bros. Entertainment Inc.
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